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忘却のシーツに溺れて 〜僕たち恋人だったんだよ、母さん〜

不慮の事故により、過去の記憶を失ってしまったアラフォーの美鈴。

日常生活や仕事の記憶はあっても、一人息子の直哉に関する思い出だけが、すっぽりと抜け落ちていた。

ハッとするほどの美貌を持ち、どこか陰のある直哉。

母親としての実感がないまま始まった二人きりの生活で、美鈴は直哉の近すぎる距離感に、理由のわからない胸のざわつきを覚える。

退院から二ヶ月が経ったある嵐の夜。

美鈴のベッドに忍び込んできた直哉は、怯える彼女を組み伏せ、あまりにも残酷で甘美な「秘密」を囁いた。

「僕たち恋人だったんだよ、母さん。ずっと愛し合っていたんだ」

罪悪感に引き裂かれそうになりながらも、息子のたくましい腕に抱かれ、指先で愛撫された瞬間、美鈴の秘処は恐ろしいほど素直に、濡れそぼって疼き出してしまう。

「直哉に強引に迫られたから」
「彼を救えるのは、母親の私だけだから……」

都合のいい免罪符を盾に、毎夜、息子のシーツの中で淫らな雌へと開発されていく美鈴。

しかし、快楽の絶頂で甦ったのは――

美鈴の理性を完膚なきまでに叩き潰す、あの日の「淫らな真実」だった。


総字数 約62,000字(読了時間 約2時間4分)

〈冒頭 約3,000字〉
第1話:目覚めと空白

白、白、白――。
すべてが均一な、無機質な白だった。
鼻腔を突くのは、ツンと尖った消毒薬の匂い。耳の奥で、規則的な電子音が小さく鳴り響いている。
「……ん……っ」
重いまぶたを押し上げると、ぼやけた視界の中に四角い蛍光灯の光が飛び込んできた。痛むほどに眩しい。美鈴は身じろぎをしようとしたが、指先ひとつ動かすのにも、泥の中に沈んでいるかのような酷い倦怠感がまとわりついた。
「宮原さん? 宮原さん、気がつきましたか?」
上から覗き込んできたのは、白いマスクをつけた初老の男性だった。首から下がった聴診器を見て、彼が医師であることを、美鈴の脳は瞬時に理解した。
自分の名前は、宮原美鈴。年齢は四十一歳。
言葉の意味も、自分が病院のベッドに横たわっていることも、社会的な常識も、すべて頭の中に揃っている。鏡を見ずとも、自分がどんな顔をして、どんな仕事をして、どんな風に生きてきたかも、知識としては引き出せた。
けれど――。
「私は……どうして、ここに……」
掠れた声で問いかける。自分の喉から出たはずの声が、まるで他人のもののようで酷く不気味だった。
「階段から足を踏み外して、頭を強く打たれたんですよ。丸一日、眠ったままでした。……宮原さん、ご自分の名前は分かりますか?」
「はい……宮原、美鈴です。製薬会社の、事務職を、しています……」
「素晴らしい。言葉も明瞭ですね。では、ご自身のこれまでの生活について、覚えていることを話していただけますか?」
医師の穏やかな促しに、美鈴は必死に記憶の引き出しを開けようとした。
しかし、そこにあったのは、無残なほどに空っぽの空間だった。
「……分からない、です」
美鈴の額に、冷たい汗が滲む。
「会社の同僚の顔や名前は、思い出せます。私の両親が、すでに他界していることも分かります。でも、彼らとどんな会話をして、どんな風に笑い合って、どんな日々を過ごしてきたのか……その『中身』が、何ひとつ思い出せないんです」
医師はペンライトで美鈴の瞳孔を確認しながら、静かに頷いた。
「逆行性健忘、それも一時的な記憶障害の可能性が高いですね。脳の器質的な損傷は幸いにも軽微です。日常生活に必要な言語能力や一般知識、いわゆる『意味記憶』は保たれていますが、ご自身の体験に基づく『エピソード記憶』だけが、衝撃によって一時的にシャットダウンされている状態です」
「そんな……じゃあ、私は、何も思い出せないまま……?」
「焦る必要はありません。環境が整い、心身の緊張が解ければ、ふとしたきっかけで元に戻ることがほとんどですからね。……ただ、宮原さん」
医師は少し声を潜め、カルテに目を落とした。
「あなたには、お一人、息子さんがいらっしゃいますね。彼のことについては、何か覚えていますか?」
「息子……?」
美鈴の胸が、どくりと大きく跳ねた。
「私に、子どもがいるんですか……?」
「ええ。宮原直哉くん、十八歳。大学生です。母子家庭で、あなたと二人暮らしだと聞いています。……何も、浮かびませんか?」
「直哉……なお、や……」
その響きを口の中で転がしてみても、胸を焦がすような愛おしさも、母親としての温かい実感も、何ひとつ湧き上がってこなかった。暗闇の中に手を伸ばしても、ただ冷たい虚空を掴むだけ。美鈴は、実の息子の名前を失ってしまっていた。
一度医師が病室の外に出る。しばらくしてから、病室の引き戸が、静かに開いた。
「母さん……?」
静寂を裂くように響いたのは、まだ少年のあどけなさを残しながらも、低く、どこか耳の奥をくすぐるような、濡れた響きを持つ声だった。
美鈴は、弾かれたように視線を向けた。
そこに立っていたのは、一瞬、呼吸を忘れてしまうほどの美貌を持った青年だった。
すらりと伸びた細身の体躯に、端正な顔立ち。透き通るような白い肌に、濡れた烏の羽のように黒い髪が、額に不規則な影を落としている。切れ長の涼しげな瞳は、深い闇を湛えているようで、吸い込まれそうな妖しい魅力を放っていた。
シャツのボタンを少し緩め、息を切らしてこちらを見つめている。
「直哉、くん……?」
美鈴が、探るようにその名を呼ぶ。
青年――直哉は、ゆっくりとベッドへと歩み寄ってきた。無駄のないしなやかな足取りは、まるで獲物に忍び寄る野生の豹のようで、美鈴の内に奇妙な緊張感を走らせた。
「よかった……目が覚めたんだね」
直哉はベッドの脇に膝をつき、美鈴の顔を覗き込んだ。至近距離で見つめられる。その美しさに、美鈴は不意に胸を突かれ、ごくりと喉を鳴らした。
心配そうにすぼめられた薄い唇。しかし、その瞳の奥にある熱は、ただの「母親を心配する息子」のものにしては、あまりにも濃密で、執拗なものに思えた。
「直哉くん……ごめんなさい。私、あなたのことが……」
「先生から聞いたよ。記憶が、なくなっちゃったんだよね」
直哉は悲しげに眉をひそめた。だが、その声には不思議と、取り乱した様子はなかった。むしろ、目の前の事態を冷徹に受け入れているような、奇妙な静けささえ漂っている。
「僕のこと、覚えてない?」
「……ええ。本当に、ごめんなさい」
美鈴は、申し訳なさと混乱で涙ぐみながら視線を彷徨わせた。
そんな美鈴の、ベッドの上に投げ出されていた右手に、直哉の細い指先が触れた。
ひやりとした、しかし同時にじわじわと熱を帯びた皮膚の感触。
直哉の長い指が、美鈴の掌を優しく包み込み、ゆっくりと握りしめる。
「っ……」
美鈴の背筋を、ゾクゾクとするような戦慄が駆け抜けた。
冷たいはずの指先から、直哉の体温が、そして彼特有の、瑞々しくもどこか官能的な「若い男」の匂いが、皮膚を通じて流れ込んでくるようだった。
息子。私の産んだ、私の血を分けた子◯◯。
そう自分に言い聞かせるのに、握られた手の大きさ、指の太さ、そこから伝わる確かな骨格の強さに、美鈴の身体は「異性」としての強烈な圧迫感を覚えていた。
「謝らないで、母さん」
直哉は、美鈴の手を自分の頬に寄せた。滑らかな青年の肌が、美鈴の掌に吸い付くように押し当てられる。
「僕が、全部支えるから。母さんが何も思い出せなくても、僕たちの関係は何も変わらない。家に戻って、また二人で始めよう。ね?」
優しく囁く直哉の瞳が、至近距離で美鈴をじっと見つめていた。
その瞳の奥に揺らめく、言葉とは裏腹の、飢えたような冷たい光。
美鈴は、胸のざわつきを抑えることができなかった。
これから始まる、記憶のない日常。そして、この美しすぎる「息子」との二人きりの生活。
不安と、そして自覚することすら恐ろしい、微かな、甘い予感のような緊張感が、美鈴の胸を白く染め上げていった。

忘却のシーツに溺れて 〜僕たち恋人だったんだよ、母さん〜_1

不慮の事故により、過去の記憶を失ってしまったアラフォーの美鈴。

日常生活や仕事の記憶はあっても、一人息子の直哉に関する思い出だけが、すっぽりと抜け落ちていた。

ハッとするほどの美貌を持ち、どこか陰のある直哉。

母親としての実感がないまま始まった二人きりの生活で、美鈴は直哉の近すぎる距離感に、理由のわからない胸のざわつきを覚える。

退院から二ヶ月が経ったある嵐の夜。

美鈴のベッドに忍び込んできた直哉は、怯える彼女を組み伏せ、あまりにも残酷で甘美な「秘密」を囁いた。

「僕たち恋人だったんだよ、母さん。ずっと愛し合っていたんだ」

罪悪感に引き裂かれそうになりながらも、息子のたくましい腕に抱かれ、指先で愛撫された瞬間、美鈴の秘処は恐ろしいほど素直に、濡れそぼって疼き出してしまう。

「直哉に強引に迫られたから」
「彼を救えるのは、母親の私だけだから……」

都合のいい免罪符を盾に、毎夜、息子のシーツの中で淫らな雌へと開発されていく美鈴。

しかし、快楽の絶頂で甦ったのは――

美鈴の理性を完膚なきまでに叩き潰す、あの日の「淫らな真実」だった。


総字数 約62,000字(読了時間 約2時間4分)

〈冒頭 約3,000字〉
第1話:目覚めと空白

白、白、白――。
すべてが均一な、無機質な白だった。
鼻腔を突くのは、ツンと尖った消毒薬の匂い。耳の奥で、規則的な電子音が小さく鳴り響いている。
「……ん……っ」
重いまぶたを押し上げると、ぼやけた視界の中に四角い蛍光灯の光が飛び込んできた。痛むほどに眩しい。美鈴は身じろぎをしようとしたが、指先ひとつ動かすのにも、泥の中に沈んでいるかのような酷い倦怠感がまとわりついた。
「宮原さん? 宮原さん、気がつきましたか?」
上から覗き込んできたのは、白いマスクをつけた初老の男性だった。首から下がった聴診器を見て、彼が医師であることを、美鈴の脳は瞬時に理解した。
自分の名前は、宮原美鈴。年齢は四十一歳。
言葉の意味も、自分が病院のベッドに横たわっていることも、社会的な常識も、すべて頭の中に揃っている。鏡を見ずとも、自分がどんな顔をして、どんな仕事をして、どんな風に生きてきたかも、知識としては引き出せた。
けれど――。
「私は……どうして、ここに……」
掠れた声で問いかける。自分の喉から出たはずの声が、まるで他人のもののようで酷く不気味だった。
「階段から足を踏み外して、頭を強く打たれたんですよ。丸一日、眠ったままでした。……宮原さん、ご自分の名前は分かりますか?」
「はい……宮原、美鈴です。製薬会社の、事務職を、しています……」
「素晴らしい。言葉も明瞭ですね。では、ご自身のこれまでの生活について、覚えていることを話していただけますか?」
医師の穏やかな促しに、美鈴は必死に記憶の引き出しを開けようとした。
しかし、そこにあったのは、無残なほどに空っぽの空間だった。
「……分からない、です」
美鈴の額に、冷たい汗が滲む。
「会社の同僚の顔や名前は、思い出せます。私の両親が、すでに他界していることも分かります。でも、彼らとどんな会話をして、どんな風に笑い合って、どんな日々を過ごしてきたのか……その『中身』が、何ひとつ思い出せないんです」
医師はペンライトで美鈴の瞳孔を確認しながら、静かに頷いた。
「逆行性健忘、それも一時的な記憶障害の可能性が高いですね。脳の器質的な損傷は幸いにも軽微です。日常生活に必要な言語能力や一般知識、いわゆる『意味記憶』は保たれていますが、ご自身の体験に基づく『エピソード記憶』だけが、衝撃によって一時的にシャットダウンされている状態です」
「そんな……じゃあ、私は、何も思い出せないまま……?」
「焦る必要はありません。環境が整い、心身の緊張が解ければ、ふとしたきっかけで元に戻ることがほとんどですからね。……ただ、宮原さん」
医師は少し声を潜め、カルテに目を落とした。
「あなたには、お一人、息子さんがいらっしゃいますね。彼のことについては、何か覚えていますか?」
「息子……?」
美鈴の胸が、どくりと大きく跳ねた。
「私に、子どもがいるんですか……?」
「ええ。宮原直哉くん、十八歳。大学生です。母子家庭で、あなたと二人暮らしだと聞いています。……何も、浮かびませんか?」
「直哉……なお、や……」
その響きを口の中で転がしてみても、胸を焦がすような愛おしさも、母親としての温かい実感も、何ひとつ湧き上がってこなかった。暗闇の中に手を伸ばしても、ただ冷たい虚空を掴むだけ。美鈴は、実の息子の名前を失ってしまっていた。
一度医師が病室の外に出る。しばらくしてから、病室の引き戸が、静かに開いた。
「母さん……?」
静寂を裂くように響いたのは、まだ少年のあどけなさを残しながらも、低く、どこか耳の奥をくすぐるような、濡れた響きを持つ声だった。
美鈴は、弾かれたように視線を向けた。
そこに立っていたのは、一瞬、呼吸を忘れてしまうほどの美貌を持った青年だった。
すらりと伸びた細身の体躯に、端正な顔立ち。透き通るような白い肌に、濡れた烏の羽のように黒い髪が、額に不規則な影を落としている。切れ長の涼しげな瞳は、深い闇を湛えているようで、吸い込まれそうな妖しい魅力を放っていた。
シャツのボタンを少し緩め、息を切らしてこちらを見つめている。
「直哉、くん……?」
美鈴が、探るようにその名を呼ぶ。
青年――直哉は、ゆっくりとベッドへと歩み寄ってきた。無駄のないしなやかな足取りは、まるで獲物に忍び寄る野生の豹のようで、美鈴の内に奇妙な緊張感を走らせた。
「よかった……目が覚めたんだね」
直哉はベッドの脇に膝をつき、美鈴の顔を覗き込んだ。至近距離で見つめられる。その美しさに、美鈴は不意に胸を突かれ、ごくりと喉を鳴らした。
心配そうにすぼめられた薄い唇。しかし、その瞳の奥にある熱は、ただの「母親を心配する息子」のものにしては、あまりにも濃密で、執拗なものに思えた。
「直哉くん……ごめんなさい。私、あなたのことが……」
「先生から聞いたよ。記憶が、なくなっちゃったんだよね」
直哉は悲しげに眉をひそめた。だが、その声には不思議と、取り乱した様子はなかった。むしろ、目の前の事態を冷徹に受け入れているような、奇妙な静けささえ漂っている。
「僕のこと、覚えてない?」
「……ええ。本当に、ごめんなさい」
美鈴は、申し訳なさと混乱で涙ぐみながら視線を彷徨わせた。
そんな美鈴の、ベッドの上に投げ出されていた右手に、直哉の細い指先が触れた。
ひやりとした、しかし同時にじわじわと熱を帯びた皮膚の感触。
直哉の長い指が、美鈴の掌を優しく包み込み、ゆっくりと握りしめる。
「っ……」
美鈴の背筋を、ゾクゾクとするような戦慄が駆け抜けた。
冷たいはずの指先から、直哉の体温が、そして彼特有の、瑞々しくもどこか官能的な「若い男」の匂いが、皮膚を通じて流れ込んでくるようだった。
息子。私の産んだ、私の血を分けた子◯◯。
そう自分に言い聞かせるのに、握られた手の大きさ、指の太さ、そこから伝わる確かな骨格の強さに、美鈴の身体は「異性」としての強烈な圧迫感を覚えていた。
「謝らないで、母さん」
直哉は、美鈴の手を自分の頬に寄せた。滑らかな青年の肌が、美鈴の掌に吸い付くように押し当てられる。
「僕が、全部支えるから。母さんが何も思い出せなくても、僕たちの関係は何も変わらない。家に戻って、また二人で始めよう。ね?」
優しく囁く直哉の瞳が、至近距離で美鈴をじっと見つめていた。
その瞳の奥に揺らめく、言葉とは裏腹の、飢えたような冷たい光。
美鈴は、胸のざわつきを抑えることができなかった。
これから始まる、記憶のない日常。そして、この美しすぎる「息子」との二人きりの生活。
不安と、そして自覚することすら恐ろしい、微かな、甘い予感のような緊張感が、美鈴の胸を白く染め上げていった。

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