童貞は母に依頼する

学生の俺は、まだ童貞であることに、言いようのない焦りと劣等感を抱えていた。誰にも相談できず、追いつめられた俺が最後に行き着いたのは、俺を世界で一番愛してくれている母さんなら、この絶望的な願いを聞き入れてくれるかもしれない、というあまりにも歪んだ確信だった。
ある夜、俺は母さんに真剣に頼み込んだ。「俺の初めての相手になってほしい」と。俺の苦しみを知った母さんの、深すぎる愛情は暴走し、その願いを受け入れてくれた。
総字数 約3500字
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(試し読み1)
俺は、意を決して、震える唇を開いた。それは、人生で、最も重く、そして、最も真剣な言葉だった。「お母さん、お願いがあるんだ」「……なあに? 改まって」「俺の、初めての相手になってくれないか」。その言葉が放たれた瞬間、母さんの顔から、すべての表情が抜け落ちた。最初は、驚き。次に、深い戸惑い。そして、やがて、その瞳には、どうしようもないほどの、深い悲しみの色が、じわりと広がっていった。
(試し読み2)
「どうして、そんなこと……私に頼むの?」母さんの問いに、俺は、ずっと心の中で準備していた、唯一の、そして最強のカードを切った。「母さんしか、頼れる人がいないんだ。……俺のことを、世界で一番愛してくれているのは、母さんだろう? だから、母さんにしか、お願いできないんだ」。それは、彼女の深い愛情に付け込んだ、あまりにも残酷な言葉だった。母さんの心は、激しく揺さぶられていた。
(試し読み3)
俺は、まるで操り人形のように、そのベッドの脇にひざまずいた。そして、母さんの、無防備に開かれた足の間に、顔をうずめる。そこから香るのは、俺が、生まれてからずっと知っている、母さんの匂いだった。その、あまりにも近くて、安心するはずの匂いが、今は、どうしようもなく背徳的なものに感じられた。母さんの肩が、小さく、震えているのが分かった。