元カレに寝取られた母

裕福ではないが、誠実な父と明るい母と共に、穏やかで満ち足りた日々を送っていると信じていた少年・裕司。しかし、母親が学生時代の同窓会に参加したことをきっかけに、その完璧な日常に亀裂が入り始める。どこか上の空になり、スマートフォンを眺めてはため息をつく母の姿に、裕司は漠然とした不安を募らせていく。
ある週末、母親の不審な様子から疑惑を確信に変えた裕司は、罪悪感を抱きながらも彼女のスマートフォンを盗み見てしまう。そこに記されていたのは、結婚前の恋人だった男との、再会を喜ぶ甘いメッセージの応酬だった。
真実を確かめるため、翌日家を出た母を尾行した裕司が辿り着いたのは、恋人たちの集う大きな公園だった。そこで彼が木の陰から目撃したのは、男と再会し、失われた時間を取り戻すかのように求め合う母の姿……。
総字数 5000字
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(試し読み1)
その完璧な日常に、磨かれたガラスに走る一本の線のような、小さな亀裂が入ったのは、母親が学生時代の同窓会に参加した数日後のことだった 。同窓会から帰ってきた日を境に、母親はどこか上の空になる時間が増えた 。楽しそうにテレビを見ていたかと思えば、ふとすべての表情が抜け落ち、遠くを見つめている 。そして何より、片時も手放さなくなったスマートフォンを眺めては、誰にも見せないような切なげな表情で、長く、深い、胸の奥の何かをすべて吐き出すようなため息をつくようになったのだ 。
(試し読み2)
メッセージアプリを開くと、一番上に表示されていたのは、裕司の知らない男の名前だった 。息を止め、そのトーク画面を開く。そこに表示されていたのは、彼の想像を遥かに超えた、甘い言葉の応酬だった 。『同窓会で会えて、本当に嬉しかった。君は昔と少しも変わらないな』『あなたこそ、素敵になっていて驚いたわ』『あの頃に戻りたいよ。……馬鹿だよな、俺。でも、今でも君を愛している』 。父親への裏切りを示す生々しい言葉の数々に、裕司は目の前が暗くなるような感覚に襲われた 。
(試し読み3)
やがて男は、母親の体を抱きかかえるようにして、その場で結合した 。古い木製のベンチが、二人の動きに合わせて、軋み、喘ぐような音を立てる 。恋人たちのための、明るいはずの公園という日常的な場所で、今まさに行われている非日常的な行為 。自分の知らない母親の過去 。そして、その過去から亡霊のように現れた男に、今まさに母親を奪われているという事実 。それは、裕司の心に深い絶望と、二度と埋まることのない絶対的な喪失感を刻みつけた